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東京地方裁判所 平成元年(ワ)6042号 判決

原告 株式会社 アルファー企画

右代表者代表取締役 浦山英明

右訴訟代理人弁護士 伊東正勝

同右 松坂祐輔

同右 空田卓夫

被告 有限会社 手塚製本所

右代表者共同代表取締役 飯塚勝

〈ほか一名〉

被告補助参加人 手塚勝

〈ほか一名〉

右二名訴訟代理人弁護士 佐藤孝

同右 田中健惠

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、手塚勝名義の被告の持分六〇〇〇口及び手塚梅子名義の被告の持分六〇〇〇口につき、原告への名義書換えをせよ。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、昭和二一年一〇月二日に成立した総出資口数二万口(資本金二〇〇万円)の有限会社である。

2  昭和六三年八月二四日当時、被告補助参加人手塚勝(以下「補助参加人勝」という。)は、被告の持分六〇〇〇口(以下「本件持分(1)」という。)を、被告補助参加人手塚梅子(以下「補助参加人梅子」という。)は、被告の持分六〇〇〇口(以下本件持分(2)」という。)を有していた。

3(1)  補助参加人勝は、昭和六三年八月二四日、訴外協進商事有限会社(以下「協進商事」という。)に対し、本人として、本件持分(1)を、補助参加人梅子の代理人として、本件持分(2)を、売り渡す旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。

(2) 補助参加人梅子は、右売渡しに先立ち、補助参加人勝に対し、その代理権を与えた。

4(1)  協進商事は、昭和六三年八月二四日、訴外株式会社アルファー(以下「アルファー」という。)から、弁済期を昭和六四年二月二四日と定めて金八億円を借り受けた。

(2) 原告は、昭和六三年八月二四日、協進商事の委託を受け、アルファーに対し、右借受金債務の支払を連帯保証する旨約した。

(3) 協進商事は、右同日、右連帯保証契約(以下「本件連帯保証契約」という。)に基づき原告が協進商事に対して有する求償権を担保するため、本件持分(1)(2)を原告に譲渡する旨約した。

(4)① 補助参加人勝は、本人及び補助参加人梅子の代理人として、右譲渡を承認した。

② 補助参加人梅子は、右承認に先立ち、補助参加人勝に対し、右承認の代理権を与えた。

(5) 原告は、本件連帯保証契約に基づき、平成元年三月三〇日、アルファーに対し、金六億円の弁済をした。

(6) 原告は、平成元年二月二四日の経過により、委託を受けた保証人の求償権の事前行使として、本件持分を完全に取得した。

5(1)  原告は、平成元年四月二六日に到達した内容証明郵便により、被告の代表者としての補助参加人勝に対し、本件持分(1)(2)の譲渡を受けた旨通知するとともに、社員総会において右譲渡の承認をすべき旨並びに承認をしない場合には、譲受けの相手方を指定すべき旨請求した。

(2) なお、同年五月一〇日はすでに経過している。したがって、社員総会が譲渡を承認しない場合において、譲渡の相手先の指定をすべき期間は、既に経過している。

(3) したがって、原告は、被告に対する関係においても、本件持分(1)(2)の権利者である。

6(1)  昭和六三年八月二四日当時、補助参加人勝は、被告の共同代表取締役(二名)のうちの一人であった。

(2) したがって、被告は、本件譲渡契約及び本件連帯保証契約により本件持分(1)(2)が原告に譲渡されたことを知悉していたことになるから、譲渡の日である昭和六三年八月二四日から二週間内に譲受けの相手方の指定をしなかった以上、原告への譲渡につき社員総会の承認があったものとみなすべきである。

7  よって、原告は、被告に対し、本件持分(1)(2)につき、原告に名義書換えをすることを求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告)

1 第1項の事実は、認める。

2 第2項は、そのうち、補助参加人勝及び同梅子の保有していた持分を、各五〇〇〇口の限度で認め、その余は否認する。

3 第3項の事実は、否認する。

4 第4項の事実は、知らない。

5(1) 第5項(1)の事実は、知らない。

(2) 同項(2)の法的主張は、争う。

(3) 同項(3)は、争う。

6(1) 第6項(1)の事実は、認める。

(2) 同項(2)は、争う。

7 第7項は、争う。

(被告補助参加人ら)

1 第1項の事実は、認める。

2 第3項の事実は、否認する。

3(1) 第4項(1)ないし(3)、(5)の事実は、知らない。

(2) 同項(4)の事実は、いずれも否認する。

(3) 同項(6)は、争う。

4(1) 第5項(1)の事実は、否認する。

(2) 同項(2)の法的主張は、争う。原告の主張を前提としても、原告は本件持分(1)(2)の譲受人に過ぎないから、譲渡承認の請求権を有していない。

(3) 同項(3)は、争う。

5(1) 第6項(1)の事実は、認める。

(2) 同項(2)は、争う。

6 第7項は、争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因第1項の事実は、当事者間に争いがない。

二  まず、請求の原因第5項につき、判断する。

《証拠省略》によると、原告が被告に対して発送した内容証明郵便には、本件持分(1)(2)の原告への譲渡について社員総会の承認の手続をとるよう請求する旨記載されてはいるが、社員総会が譲渡を承認しない場合には他に譲渡の相手方を指定すべき旨の記載はなかったことが認められる。

ところで、有限会社法第一九条第三項は、社員は、書面により譲渡を受けるべき相手方を指定すべき旨の請求をすることができると規定し、同条第四項(商法二〇四条ノ二第二項後段、第三項)は、これを受けて、そのような書面による請求があった場合において、請求の日から二週間内に社員総会が譲渡の承認も譲渡を受けるべき相手方の指定もしないときは、請求のあった譲渡について社員総会の承認があったものとみなす旨規定している。したがって、同項の規定する譲渡承認という効果は、譲渡承認請求の書面に譲渡を承認しない場合には他に譲受人となるべき者を指定すべき旨の請求が明示されていた場合に初めて生じるものである。

したがって、仮に原告が本件持分(1)(2)の譲渡を受けていたとしても、書面による譲渡の相手方の指定請求がなかった本件においては、原告への譲渡について社員総会の承認があったものとみなす余地はない(なお、当裁判所は、譲受人も有限会社法第一九条第三項の請求をすることができるとする見解に与するものではない。)。

三  次に請求の原因第6項について判断するに、二において判示したように、有限会社法一九条第四項により譲渡の承認があったものとみなされるのは、譲渡の相手方の指定をすべき旨の請求を書面によりしたときに限られる。したがって、被告の共同代表取締役の一人であった補助参加人勝が、本件譲渡契約及び本件連帯保証契約に関与したことにより、本件持分(1)(2)の原告への譲渡を知悉しており、かつ、原告に対し、社員総会において承認を得べく手続をとる旨約していたとしても、原告において書面による相手方の指定請求を行っていない以上、本件持分(1)(2)の原告への譲渡について社員総会の承認があったものとみなす余地はない。

四  よって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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